
人工知能の導入により教育の方法は大きく変わることが考えられます。生徒の「つまずき」を教員が明確に理解できるようになり、指導の内容にも反映できるようになることなどが想定されています。これらの教育が普及することにより、教員の仕事についても質の変化が起こるでしょう。
すでに教育に導入されつつある人工知能
多くの国ではすでに人工知能が教育に大きく関わっています。例えばアメリカでは生徒がタブレットで問題を解き進めていくと、生徒の理解力に応じて出題される問題が変わっていくというサービスが提供されています。このサービスが優れているのは、単に正解・不正解だけで理解力を判断しているわけではなく、解答にいたるプロセスを重視し、内容理解が不十分な部分を細かく分析した上で、出題する内容を変えているところです。2015年12月のJETRO(日本貿易振興機構)のレポートによれば、アメリカではこのサービスが幼稚園から大学まで、約60万人を対象に使われているとのことです。
また、ブラジルでも人工知能を活用した学習サービスを提供し、ブラジルの教育省から唯一オンラインでの大学入試対策の事業者として認定されている企業が現れています。
つまずくポイントを「可視化」
これらのサービスが今までの教育と異なる部分として、生徒が「分かっていない」部分が非常に明確となるというところが挙げられます。もちろん今までもテストの結果などで、生徒の学習した範囲の最終的な理解度はある程度明らかになっていましたし、教員もその結果に基づいたフォローを行っています。しかし、人工知能を使ったサービスはその生徒が「どこでつまずいているのか」ということを目に見える形で提供してくれるため、生徒にとってだけでなく、教える側にとっても非常に有効であるといえます。この成果をもとに、教員は個々の生徒が苦手とする部分に留意しながら、次に学習する内容について修正を加えつつ授業を構成していくことができるようになるわけです。
これからの教育はどうなる?
「教育に人工知能を導入する」というと、「ロボットが授業を行い、人間の教員は要らなくなってしまう」といったイメージが湧いてしまうかもしれません。しかし、現状および近い将来に用いられる人工知能は、今まで経験を重ねてきた一部の教員しか気付けなかったようなことを、多くの教員に可視化した形で提供してくれるところがポイントです。これは、特に経験の少ない教員には有力なアドバイスとなるのではないでしょうか。
また、人工知能を有効活用することにより、これまで教員が行ってきた「個別の生徒に適した問題を選ぶ」という作業にかかっていた時間を短縮できることも考えられます。これにより、教員は個別の面談といった生徒指導など、他の仕事に力を注げるようになります。新しい技術を毛嫌いするのではなく、有効に使える部分を見つけてうまく付き合っていくことが重要になるといえるでしょう。
人工知能と教育の関わりについて見てきました。いま一番研究が進んでいる分野のひとつであり、常に新しい情報を収集する必要があるトピックであるといえます。政府も「日本再興戦略2016」において「IT を活用して理解度に応じた個別化学習を導入する」と明言しており、新たな学習システムの構築に前向きです。
「新しい技術が導入されると仕事が奪われる」という不安に対して、人工知能の専門家がよく用いる例えとして、「自動改札機と駅員の関係」の例が挙げられます。自動改札機が導入されたからといって、駅から駅員がいなくなってしまったわけではなく、駅員は機械の保守や整備といった、今までにはなかった仕事を行うようになっています。
教員の仕事は、これまでも技術の発達や時代の変化により、少しずつ変わってきています。人工知能の導入により、さらなる変化が起こることが考えられますが、教員に必要なのはいつの時代も「生徒のためになるのならば何でも挑戦してみよう」という気持ちなのではないでしょうか。