
「起業家教育」は実際に企業と関わりを持つことによって生徒にさまざまな力を身につけさせる試みです。経済産業省も支援し、実際の事例が報告されています。実施にあたっては企業および学校内部での連携が必要なことも多く、導入のハードルは高くなっています。少しずつ事例を積み重ねていくことが求められています。
近年、「総合的な学習」の一貫として、高等学校だけでなく小学校や中学校でも「起業家教育」が展開されていることをご存じでしょうか? 経済産業省が中心となり、文部科学省も協力しているこの「起業家教育」がどのようなものなのか、具体的な実践事例も交えながら考えてみたいと思います。
「起業家教育」で養われる力とは
「総合的な学習」の時間に取り入れられつつある「起業家教育」においては、児童・生徒が起業家のように物事を考えてみることが推奨されます。これにより、情報活用能力や問題解決能力など、さまざまな力を身につけさせるというねらいがあります。例えば、「新商品を開発する」という試みを通じて、周りの人の意見を聞いてまとめるリーダーシップやコミュニケーション能力が自然と養われることが期待されています。
経済産業省は、文部科学省の協力を得て「初等中等教育段階における起業家教育の普及に関する検討会」を開催。起業家教育の現状や、課題点の整理、これからの進むべき方向性などを検討しました。そこでの議論をもとに、起業家教育の考え方や指導事例について「『生きる力』を育む起業家教育のススメ~小学校・中学校・高等学校における実践的な教育の導入例~」(PDF)を発表しています。ここから、起業家教育の事例について見ていきましょう。
小・中学校での事例
京都府京都市立養正小学校では、地域の名産品である和菓子について学んだうえで、和菓子店の人にインタビューを行う授業が「総合的な学習」の時間内に行われたことがあります。インタビューの内容を踏まえて、児童が新たな和菓子を考案し、地域のイベントで販売するところまで行っているようです。また、岐阜県本巣市立本巣中学校では、授業内で生徒が地域の市場調査を行ったのちに、企業と協力して新たな商品開発を行うというケースが報告されています。
高等学校の事例
品川女子学院では、文化祭の企画を自分たちで考え、提携してくれる企業を探しだし、商品開発および文化祭における販売活動を行うという学習が行われました。文化祭の販売活動というと、いわゆる模擬店ではないかと思われるかもしれません。しかし、根本的に異なるところとして、文化祭後に「株主総会」が行われて生徒による評価はもちろん、大人が担当する「監査役」からの厳しいチェックが入るという点が挙げられます。また、品川女子学院の場合は、長いスパンで企業との関わりを持った授業が実施されていることも大きな特徴です。
「起業家教育」の問題点
普段の授業では身につかないような能力を自然と育むことができる「起業家教育」。非常に魅力的に感じられますが、学校が積極的に企業と関わる必要も出てくるため、両者の連携がまだまだ難しく、導入が進んでいない学校も多いのが現実です。学校と企業との橋渡しを行うNPOもうまく活用しながら、授業の内容に応じて講演会や商品開発に協力して頂ける企業を見つけていくことが求められます。また、学校をあげて行っているということを企業の方に理解していただくには、学校と地域をつなげる存在としての「校長」の役割が非常に重要であるとともに、実施にあたっては学校内外での協力体制を構築していくことも大切でしょう。
「起業家教育」について見てきました。学校内外の協力体制を構築するには多大な労力および時間が必要となるため、すぐに満足行くレベルの「起業家教育」を行うのは難しいかもしれませんが、次につながることを期待して少しずつ進めていくことが求められているといえます。