
2016年に倉敷で開催されたG7教育大臣会合において、倉敷宣言が出されました。今までにはなかった新たな問題に対処するために、教育がいかに重要であるかについて述べたこの宣言は、世界各国における教育の質的転換を求めるものとも言えます。宣言からは移民問題などが深刻化していることも読み取れ、新たな時代に向けた教育の変化が求められています。
教育の果たすべき三つの新たな役割
G7の教育大臣会合では、技術が進歩し世の中が便利になる一方で、難民やテロの問題が発生している現状にあり、複雑でグローバルな問題の解決のためには「教育の充実」が不可欠であることで一致しました。これを成果文書として宣言したものが「倉敷宣言」です。
倉敷宣言では教育の果たすべき新たな役割として以下の三つが挙げられています。
- 1.「社会的包摂」、「共通価値の尊重」の促進
- 2.新しい時代に求められる資質・能力の育成
- 3.教育の新たな役割を果たすための国際協働の推進
それぞれ詳しく見ていきましょう。まず、1の背景には、例えばいまヨーロッパで大きな話題となっている移民・難民問題があります。このような、国レベルで対処できないことが明らかな問題の解決のために、教育に求められる役割が増しているというわけです。このほかにもシチズンシップ教育なども念頭に置かれています。
2では、いわゆる知識偏重型教育への反省として、「何を知っているか」ではなく、「知っていることをどう使うか」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」ということを念頭に置いた教育が求められています。これは、人工知能などの普及により、近い将来において人間の仕事内容が大きく変わると予想されていることが背景にあります。
3では多文化共生社会の構築のために、今まで以上にG7各国間において教育分野で協働することが求められています。これまで、教育はそれぞれの国の文化に基づいて行われるもので、各国の文化の差異を尊重して積極的な協働というものはなされてきませんでした。ところが、先に上げたような「共通価値の尊重」などのためにも、今後は多文化共生社会の構築に向けて各国の協働が必要不可欠であると判断されたといえます。
教員にも求められる「グローバル化への対応」
倉敷宣言ではこの他、教育の多様性の尊重や女性の地位向上のための教育の促進、教育と雇用・社会との接続、ICTなどの技術革新に対応した教育、教職の地位向上、教育の国際化など、さまざまな内容が盛り込まれています。
注目すべき点として、「増加する国家間の人の移動に対応するため、教員自身が異なる文化の人々と協働することができる力やグローバル化に対応した能力を身につけることが不可欠であることを我々は強調する」と述べられていることが挙げられます。生徒に対して「グローバル化」の重要性を説きながら、自身はなかなかこのような力を身に付けることができていない教員にとっては耳の痛い内容と言えます。この宣言が出された背景には、日本にいるとなかなか実感できない移民の問題が深刻化しているということがうかがえます。
この他にも問題の解消に向けて、教育に関するさまざまな内容が宣言には盛り込まれています。倉敷宣言の全文や骨子は文部科学省のホームページから閲覧できます。議長国の教員として、ぜひ一度は目を通しておきたい内容と言えます。
倉敷宣言について見てきました。2017年にはイタリアでG7教育大臣会合が開催される予定です。それまでに、倉敷宣言で出された内容が日本で、そして、世界においてどのように進展していくのかについて、ぜひ注目してみてください。