
アクティブ・ラーニングは決して今までの取り組みを否定するものではありません。今までの授業実践をより効果的なものにするための取り組みと考えましょう。知識構成型ジグソー法をはじめとするさまざまな手法について学び、うまく取り入れていくことが重要です。
教育業界において近頃何かと話題になることの多いアクティブ・ラーニングですが、どのような実践例が考えられるでしょうか。ここでは、全く新たな取り組みを導入するというよりも、アクティブ・ラーニングの考え方を取り入れて今までの授業をブラッシュアップする方法について検討してみたいと思います。
そもそもアクティブ・ラーニングとは何か
文部科学省の中央教育審議会の答申『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~』によれば、アクティブ・ラーニングとは、「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」とされています。
能動的に学修に参加することで、「認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力」が育成できるというのがメリットとして掲げられています。その手法としては、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習などがあり、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークも有効な方法として挙げられます。つまり、教える側の一方的な講義ではなく、学ぶ側の能動的な学修活動を重視した教育であると言えるのです。
いま、アクティブ・ラーニングは大学教育に限らず、広く注目を集めている教育方法の一つです。
これまでのグループ学習では駄目?
「このテーマについて班で調べて、後で意見を言ってください」という手法は、これまでも使われてきています。一見、学ぶ側の能動的な学習活動に重きを置いているように見えますが、この方法では、班内で特定の生徒ばかりが発言し、あまり発言しない生徒が出てきてしまう可能性があります。進行役の生徒がうまく班を取りまとめるグループもあれば、一部の生徒の意見で全体が左右されるグループもあり、どうしてもばらつきが出てしまうのです。教員も、発言できずにいる学生を十分にフォローするのが難しいことが多いようです。
このような問題を解決する方法のひとつが「知識構成型ジグソー法」の学習。グループを一度解体し、それぞれに異なったことを学ぶ専門班を構成します。その後、元の班に戻り、それぞれが専門班で学んだ内容を踏まえた議論を構築するのです。
この場合、全員が専門班において学んだことを元の班のメンバーに伝える「専門家」の役割を担うため、生徒は「元の班に戻ったときにどのように話せば伝わるだろうか」という意識をもって専門班で学ぶことになります。そして、元の班では専門家としての役割を果たしつつほかの生徒の意見も聞き、班としての意見を構築していきます。
「知識構成型ジグソー法」の実践例
「東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構」が発表している「協調学習 授業デザインハンドブック―知識構成型ジグソー法を用いた授業づくり―」では、宮崎県立都城泉ヶ丘高等学校附属中学校における国語の授業での『走れメロス』の実践例が紹介されています。
ここでは、それぞれ「メロス」「王」「その他」について注目する班を形成して、原典とされるシラーの作品と『走れメロス』との比較検討を行い、それらを各々のグループに持ち帰って作品の根底にあるものは何かについて考えるという授業が展開されています。それぞれが専門班で学んだことを皆と共有することにより、一度通読するだけでは見落としてしまいがちな、主人公以外の人物についての多面的な理解が進むようになるわけです。なお、このハンドブックでは中学国語以外にも高校の生物や英語における知識構成型ジグソー法の授業実践も紹介されていますので、ぜひ参考にしてください。
アクティブ・ラーニングの一例として、知識構成型ジグソー法を用いた授業実践を紹介しました。今までの手法に少し手を加えるだけで、生徒がより能動的に学習できます。アクティブ・ラーニングの導入に向けて戸惑いがあるかもしれませんが、効果的な授業を展開しようと行ってきた今までの取り組みと、決して相反するものではないということはお分かりいただけるかと思います。知識構成型ジグソー法以外にもさまざまな手法が提唱されていますので、これまでの授業にうまく取り入れる方法を見つけていきましょう。