
「教育の情報化ビジョン」に基づいて取り組まれている、タブレット端末を活用した授業は生徒の積極性・自主性を高めることがわかってきました。その一方で、全国の学校でICT教育が取り入れられるためには、予算の確保、教育の対応力、生徒への事前指導などまだ課題も残っています。
2011年に文部科学省から発表された「教育の情報化ビジョン」。その目標のひとつが「2020年までに全ての学校で1人1台のタブレットを導入したIT授業を実現する」というものです。2015年を迎えた今、現場となる学校ではどれだけIT化が進んでいるのでしょうか? 実際にタブレット端末を使用した授業を進めている3つの事例を参考に、ICT教育の有効性と課題について考えてみましょう。
「授業が楽しい!」生徒の積極的な参加を促すICT教育の可能性
東京都墨田区では、学校を統括する教育委員会が主体となってICT教育の普及を進めています。
2013年4月を皮切りに、区内の小中学校に向け、12.5型のタッチパネル搭載のタブレットを300台導入、配布。同時に、学校の各フロアに1台ずつ、電子黒板が設置されました。
機器の活用は、教師が主体となり、電子黒板に資料を映して説明したり、タブレットに搭載されたカメラで生徒の作品を撮影し、画像をもとに教師がコメントをしたりするなど、動きのある授業が行われるようになりました。視覚的な要素を増やす電子黒板やタッチパネルを授業に用いることで、生徒の視線が前に集中するようになったという声もあるようです。また、グループ学習に活用することで、生徒の取り組みが活発化し、場をまとめるリーダー役が発現するといった効果も生まれています。新たなツールの利用で生徒が積極的、主体的に楽しみながら授業に参加する姿勢が見られるようになりました。
教育委員会が積極的に進める墨田区の取り組みは、これからのICT教育現場の先駆的なモデルになるのではないでしょうか。
タブレットを使えばICT教育か? 真のICT教育とは?
生徒・教員全員にタブレット端末を配布し、デジタル教材やアプリを利用した授業を展開するなど、積極的にICT教育を進める近畿大学付属高等学校。その活用を模索するなかで、同校のICT教育推進室長は「表面的事象だけをとらえた教育のICT化は失敗の可能性が高い」と警鐘を鳴らしています。
生徒数3000名をこえる近大付属高校では、それまで紙媒体で行っていたテストや資料、文集などの配布物を、全てタブレット端末への配信に切り替えました。印刷や回収にかかる費用や労力が一気に解消し、業務の効率化に成功しています。雑務をスマート化することで、教員が授業研究に費やす時間を確保。より内容の充実した授業を生徒へ提供することが可能となりました。
授業内では、生徒自らがタブレットを活用した新しい取り組みを提案するようになり、生徒同士の新しいコミュニケーションツールとして大きな役割を担うようになっているとか。タブレットありきの教育ではなく、学校が実践したい「教育環境の実現のための手段」としてのタブレット導入というとらえ方。教育本意という軸をぶらさないことが、本当の意味でのICT教育を成功させる条件といえるのかもしれません。
タブレット活用の課題とは? 法の未整備と教育格差
ここまで紹介した導入事例はいずれも活用後の成功例ですが、実際には導入の環境すら整わない学校も多くあります。その大きな要因となるのが、財源の問題です。資金源の違いから、私立と公立の教育格差が生まれやすいのも大きな課題といえるでしょう。
また、タブレット活用において、授業の進め方や指導方法が確立されていない点も問題に挙げられます。インターネットの利用やコミュニケーションツールとして利用を促す場合、生徒への情報モラルの指導は不可欠です。使用については、ハード面だけでなく、ソフト面においても細やかな配慮が必要になるでしょう。
このように、ICT教育推進への課題はまだまだ残っています。導入に至るまでの予算の確保だけでなく、教員側の研修、校内の環境整備、指導要綱の確立化などひとつひとつ慎重に取り組まなければいけません。そうした歩みこそが、今後のICT教育の実現に不可欠なプロセスといえるのではないでしょうか?